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2013-01

ニューヨークの「知られざるハレム」

 佐々木健二郎さんが小説を出版した。その出版記念パーティがソーホーであり、久しぶりに大勢の人に会った。タイトルは「知られざるハレム」つまり各民族の女性ヌードを密かに描いていた画家の話で、作者がモデルという。
 話は全体としてニューヨークアートシーンから疎外された画家の苦渋の状況が描写される。アンチ・アカデミズムで始まった現代美術は100年を過ぎ、アカデミズムの見直しが行われても、なお写真を越えられないものとして、写実的絵画表現を疎外し続ける。あらゆる表現が受け入れられる状況にあっても、旧来のメディアムによる絵画は「死んだ」とされる状況から抜けられない。
 例えばシェークスピアの肖像をホルバインが描き、一方発明期のカメラが彼を撮ったとして、「私なら写真を取る」とスーダン・ソンタグが言ったという。けれど同時代の無名の農夫の肖像をホルバインが描き、原型カメラが彼を撮ったとすれば、「私はホルバインを取る」と佐々木さんは書く。これは問題の本質に触れた部分だ。
 私はしかし、ソンタグの見解に賛成しない。なぜなら人はただ目で対象を見ているのではなく、音や匂いのみならず、それこそ肌で、空気という見えないものまで見ているからである。もちろん画家の才能によってその表現は、写真が捕らえたように一律ではない。けれど才能は人間の文化にとってもっとも大切なものだ。それこそソンタグが引用したBardolator (熱狂的シェークスピア崇拝者)という言葉のうちにそのことは強烈に示されているだろう。
 ともあれ、非常に多くの問題を含んだ示唆に富んだ内容だ。絵もシンプルで確かにリアリズムにおけるミニマル表現になっている。共鳴する人がロマン(小説)でしか現れないのでは無いことを願う。

知られざるハレム



 
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テーマ:絵画 - ジャンル:学問・文化・芸術

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