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2018-12

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「ただ一回だけの藤尾正之個展のこと」

 長いこと忘れていたのだが、最近しきりに思い出すことがある。それは私がサブカルチャー・スタイルの絵を、日影眩の名で発表し始める前に、東京神田の田村画廊で、80年に本名で開いた「壁」展のことである。その作品は、住んでいた青山、麻布近辺のマンションやビルの壁を写真に撮り、自分で4色にカラー分解して、シルクスクリーンで原寸サイズにプリントしたもので、壁といってもいわゆる歴史の染みこんだ味のある壁ではなくて、ただのコンクリート壁や、レンガやタイルの、シンメトリックで単調な新しい壁を撮ったものだった。
 当時私は西麻布のマンションに住んでいて、見渡す限りビルと高速道路と車に囲まれた環境にいた。アート作品を作り始めようとしていたが、一番気に掛かったのが、長年グラフイックデザイナーとして仕事をしてきて身についてしまった、かっこういい作品を作ろうとする、プロとしての美意識で、それをとにかく一切否定しようと思った。それは同時に時代に蔓延している俗的な美意識の否定でもあった。
 人工的な環境の中で創意工夫や、新たな創造などは、もういらないと考え、そのことが美意識の否定と重なって、一切創造行為の入らないかつ全く何の役にも立たないものを作ることに労力と金を掛けた。それは状況に対する批判であり、無用の用を目指していた。造形的な意図を避けるために距離と角度は除いた。
 西麻布から八王子の松が谷に越した私は、暗室にこもって、カラー分解と、シルクスクリーンの技法を学んで、ただの壁のプリントに1年間取り組んだ。それは印刷所に発注すれば済むことだったし、より経済的だったかも知れない。何しろ私はそのためにゼンダブロニカの6/45カメラも購入したのである。その期間、これほどむなしいことはない、つまりそれは発注すれば済むことだったからだが、という思いをした。しかしその無駄な行為こそが制作の意図だった。もっとも一方でその八王子にいた期間に、漫画家の谷岡ヤスジ氏から「大ファンだ」という電話が掛かり、その紹介で、東スポにエロチックなイラストレーションを毎週連載し続けていたのだが。
 会場は神田の田村画廊に決めた。丁度私の前の週に川俣正氏が会場を工事現場のようにしていたし、そのまえに会場を見に行った時には枕木が会場に並べられていて、コールタールの臭いがしたと思う。
 その一週間は、その後画家になった私は個展を繰り返してきたのだが、二度とこの時ほど楽しい個展をしたことがないと思い返すほどに楽しかった。心が浮き浮きした。そこには一切考え方以外、自分が居なかったせいかもしれない。無私であることが私を解放したのだろうか?
 朝日新聞が展覧会告知に出してくれた他は、雑誌編集者の松岡正剛氏から、海外旅行中で見られなかった、次回も案内をくれというハガキを、終わった後でいただいた以外は、メディアの反響はなかった。ただ画廊主が北海道でも見せたいと、シリーズ一式14点を預かってくれたことと(もっともこの作品は今も戻らないままになったが)、後にモノ派として活躍することになった当時多摩美の学生と、俳優川谷拓三氏の女友達の女性が「この作品の下でコーヒーを飲みたい」と買ってくれた。その時に川谷氏が作品を持って、皆で撮った写真が残っている。

 壁展会場  「壁」展会場 中央右は川谷拓三氏

 批評家が何人かサインしている。しかし当時、美術手帳の展覧会評の担当批評家が来て、一通り見た後、「何で描いているのか?」と聞いたので、私は「写真に撮って、色分解して、原寸に戻し、シルクで刷っただけだ」と答えた。彼は文字通り、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になって、ポカンとした後、さっと出て行ってしまった。カメラの機材をほとんどセットしていたカメラマンが、大あわてで機材をしまって後を追った。
 私の意図をもっとも的確に理解したのは、アメリカから来た青年だけで、「これからのアートが避けて通れない仕事」だといった。これは嬉しかった。結局前衛的な仕事は日本では理解されないのだというのが私の結論だった。丁度その会期中の会場に、東スポに描いている私の絵を見た映画監督の実相寺昭雄氏が、連載する自分の小説の挿絵に私を指名したからと、日刊スポーツ新聞社から依頼の電話があった。2年後の83年に私は、そのサブカルチャー・スタイルのイラストを絵画化した作品で銀座の地球堂ギャラリーで初個展をした。同じ一週間だが、絶頂のフォーカス誌が、カラー見開きで伝えた。「スキャンダル画家、日影眩の初個展」と。もうあの時のような開放感は味わえなかった。

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